亜急性腰痛への一手段としての心理的アプローチの影響(3-1)

生 年 月 日 昭和46年3月7日生
開業年月日 平成21年6月1日
開 業 場 所 帯広市西13条南12丁目1-5
卒業年月日 平成4年3月卒
出 身 校 北海道柔道整復専門学校
 
小川  進
(十勝ブロック)

<<緒  言>>

 腰痛を含む亜急性の疼痛は、昨今その年代を問わず世界的に増加傾向にあるが(1)、中々施術成績が上がらないというのが現場においての現状である。Simons (2)によれば筋骨格系における亜急性疼痛のほとんどは、種々の原因により筋に対し過度の負荷がかかった結果、筋の細胞膜が裂けて一部が破壊されるという微小な損傷によるものとされている。

 また筋小胞体の破壊によりCa\sl1852+が放出され損傷部位周辺の持続的な筋収縮が発生し、その領域に分布する毛細血管も収縮する。その結果、損傷部位は阻血状態となり酸素不足、エネルギー不足に陥り⑺〜⑽発痛物質の放出が促されるものと考えられている。

 加茂(3)によれば、長期にわたる疼痛そのものや、疼痛の持続による動作の制限は心理的ストレスとなり、交感神経が緊張し動脈を収縮させる。それにより損傷部位は更なる酸素不足、エネルギー不足状態となるという悪循環に陥るとされている。また中枢性パターン生成理論から疼痛の持続による痛み刺激のパターン化には心理的ストレスも関与することがわかっており⑷、亜急性の疼痛において心理的ストレスは無視できないものと考える。
したがって今回は、亜急性腰痛の施術において心理的アプローチを組み合わせることで、回復にどのような影響を及ぼすか検討した。

<<方  法>>

A.対  象

 2008年1月より2009年1月末までの約1年間で物理療法の指示が出た新患のうち、亜急性の腰痛を主訴とする患者42名を対象とした。内訳は女性27名、男性15名で、来院順に実験群と対象群に振り分けた。結果実験群(以下A群)は女性15名、男性6名の合計21名(26〜68歳)、対象群(以下B群)は女性11名、男性9名の合計20名(29〜70歳)となった。また亜急性腰痛の線引きは、筋・筋膜の損傷治癒期間を考慮し、疼痛発症後8週間以上の持続する疼痛を主訴とするものとした。

B.心理的アプローチ

 本研究は振り分けたA群に対し物理療法及び初回施術時に心理的アプローチを実施し、B群には物理療法のみを行い、二回目来院時に疼痛の程度をA群とB群で比較する対象研究として実施した。実験手続きの標準化のため、手技による施術は実施しないこととした。
 物理療法のメニューはA群B群どちらも腰椎牽引とウォーター・マッサージベッドの二種目のみとした。腰椎牽引はミナト医科学製トラックタイザーを使用した。牽引力は患者体重の1/3とし、牽引持続時間は30秒、休止時間5秒、治療時間は10分の設定とした。ウォーター・マッサージベッドはミナト医科学製アクアタイザーを使用し、全身治療プログラムで10分間の治療時間とした。

 心理的アプローチは論理情動行動療法⑸を基本に初回来院時のみ実施した。内容は患者の持つ不安要素を傾聴し、疼痛発生と持続の正しいメカニズムを伝え、認知の修正を試みるものとした。

C.統計処理

 回復度合いは二回目来院時に術者が口頭により質問し、「良くなった」と「変化無し」の2群に分けた。実測値からA群とB群間での回復度合いの比率に有意差があるかχ²検定により評価した。なお、本研究が社会科学的な観点を中心に構成されたものであることを踏まえ、有意水準は0.1(10%)とした。

<<結  果>>

 二回目来院時の聞き取り調査でA群では22名中14名に「良くなった、いくらか良くなった、気分も楽になった」等の好転が見られ、8名は「あまり変わらない、変わらない」等変化無しの結果であった。B群では20名中7名に「良くなった、いくらか良くなった」等の好転が見られ、13名の患者は「あまり変わらない、変わらない」等変化無しの結果であった。

 

 観測されたこれらの数値からχ²=3.44となった。自由度1、p=0.1の時χ²=2.71であるから2.71<3.44となり有意差が認められた(p<0.1)。よって帰無仮説は棄却、対立仮説が採択され「亜急性腰痛の回復に心理的アプローチは影響する」ということが示された。

<<考  察>>

 本研究の結果、アプローチ有り群と無し群の間に有意な差(p<0.1)が見られ、心理的アプローチは亜急性腰痛の回復に影響することがわかった。これは心理的アプローチを加えることによりストレスが緩和され、交感神経の緊張状態が緩んだ結果、局所への血流がより正常化され酸素不足、エネルギー不足の解消へと繋がったためと考えられる。また、安静中心の不安な日常生活を送っていたものが、疼痛の軽減により活動範囲が広がり、更にストレスの緩和に繋がった結果と考える。

 本研究の問題点としては、アプローチが統一出来ないため、実験手続きの標準化が困難であること。基礎的な心理学的知識が必要となること。横断研究であるためその後の変化を追跡調査していないこと。実験群と対象群のみの振り分けとなっているため年齢差、性差等による影響の違いが検討されていないことなどがあげられる。

<<参考文献>>

  1. http://www.news-medical.net/news/2009/02/09/ 16/Japanese.aspx
  2. JG, Simons DG, Simons LS. Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger point
    Manual Upper Half of body.Baltimore,Md:Williams &Wilkins;1999.
  3. 加茂淳.トリガーポイントブロックで腰痛は治る!.風雲舎,(2009)
  4. Melzack R, Loeser JD. Phantom body pain in paraplegics:evidence for a central"pattern generating mechanism"for pain.1978.
  5. 窪内節子 吉武光世.やさしく学べる心理療法の基礎.培風館,(2003)
  6. 山岡重行.サイコ・ナビ 心理学案内.ブレーン出版,(2006)
  7. Simons DG. Fibrositis/fibromyalgia:a form of myofascial trigger points?
    Am J Med. 1986; 81: 93-8.
  8. Simons DG. MYofascial pain syndromes:where are we?where are we going?
    Arch Phys Med Rehabil. 1988; 69: 207-12.
  9. Simons DG.Familial fibromyalgia and/or myofascial pain syndrome?
    Arch Phys Med Rehabil. 1990; 71: 258-9.
  10. Simons DG. Reply to MI Weintraub. Pain. 1999; 80: 451-2.
  11. Mense S, Simons D, Russell I. Muscle Pain:Understanding its Nature, Diagonosis-and Treatment. Baltimore, Md: Lippincott Williams & Wilkins; 2001.
  12. Dimitrios Kostopoulos,Konstantine Rizopoulos,
    川喜田健司;訳.
    トリガーポイントと筋筋膜療法マニュアル.
    医道の日本社,(2002).