2-3 患者様との良好なコミュニケーションの為に“聴こえ編”

[公益財団法人テクノエイド協会認定 (旧)補聴器技能者の立場より]

生 年 月 日 昭和37年2月27日生
開業年月日 平成18年6月12日
開 業 場 所 札幌市厚別区厚別中央3条3丁目1-41
卒業年月日 平成17年3月卒
出 身 校 北海道柔道整復専門学校

中原 和彦
(十勝ブロック)

<<はじめに>>

今回、十勝ブロックにおける「SSHフレンズ整骨・接骨・北海道」競技医療救護ボランティア活動の中で最も出動要請が多かったミニバスケットボール大会で応急処置を施した負傷者を対象とした統計に考察を加えて報告する。

<<目 的>>

今日は直接の施療に関してではなく、患者様とのコミュニケーションについてのお話をさせて頂きます。“聴こえ編”とありますが、ここでは加齢により聴こえが悪くなった方、いわゆる感音性難聴の方とのコミュニケーションについてのお話をさせて頂きます。
皆様方も普段問診時や施療中、施療後の説明指導などで「旨く内容が伝わっていないな」と感じたご経験は無いでしょうか、それが故に早く取れるべき痛み、改善すべき症状がなかなか良くならない等、患者様が得るべきメリットを損ねてしまっている可能性もあるわけです。そこで、このような患者様に対し、どのようにしてコミュニケーションを取ってゆけば良いのかを当院でのエピソードを交えて考察してみました。
聴こえにくさにはいくつかの種類分けがあります。それぞれの聞こえ方の特徴を理解し、適切なコミュニケーションを取ることが出来れば、より良い施療効果をも出すことが出来るのだと思います。
まず耳の構造、機能、難聴の種類について学生時代を振り返ってみたいと思います。

<<方 法>>

[耳の解剖]

耳のしくみは大きく2系統から成り立っています。

1)耳介→外耳道→鼓膜→耳小骨(ツチ・キヌタ・アブミ)までの伝音器
2)蝸牛→聴神経(→脳の言語中枢)までの感音器

[難聴の分類]

大きく三つに分けられます。

Ⅰ. 伝音性難聴
外耳から中耳にかけての障害が原因のもの。
鼓膜の損傷や中耳炎、耳垢の栓塞等で物理的に音が伝わりにくくなった状態です。
一般的には医学治療による聴力改善が可能なものとされています。
また大きな音、声で有ればハッキリと良く聞こえる事が多い為、補聴器の装用効果も高いです。
Ⅱ. 感音性難聴(迷路性難聴・後迷路性難聴)
内耳以降の感音器(蝸牛、聴神経、脳)の障害が原因のもので、加齢によるもの、騒音によるもの、薬物によるもの等(マイシン系難聴)があり、医学治療による聴力の改善は困難とされています。補聴器の装用効果も難しくなる場合があります。
Ⅲ. 混合性難聴
上記二つの症状が混ざっている難聴です。

[聞こえの特徴]

加齢による聴力の低下はだれにでも起こりうる現象で、病気ではありません。
聴力は徐々に失われて行く為、自分では気がつきにくいことも特徴です。
年齢と共に特にかん高い音域の聞こえが悪くなり、低音域の聞こえは比較的残っています。
その為、単なる音は聞こえるものの、言葉などの聴き分けに必要な分析力の低下が著しく、聴こえの明瞭性が失われ、聴き取りの間違いが起こってしまいます。

[可聴周波数と言語周波数]

人間が聞き取ることの出来る音の周波数範囲は一般に20Hzから20000Hzと言われています。一方、会話音の周波数範囲はもう少し狭く、日本語では100Hzから2000Hz程(英語は2000Hz〜12000Hz)とされています。また、あ・い・う・え・お、等の母音は250Hz〜1000Hzの低い音、他の子音は1000Hzより上の高い音の周波数成分が多いとされています。
ただし、さ・し・す・せ・そ、等の子音は さーあ・しーい・すーう・せーえ・そーお のように、母音を含む音の構成となります。

[例]

加齢による感音性難聴の方が“さかな”と言う言葉を聞いた場合、高い音の子音よりも低い音の母音がより強く聞こえてしまいますので、音の構成が さ—あ・か—あ・な—あ である言葉は、→ さ・か・あ 又は さ・あ・な 或いは あ・か・な、 あ・か・あ、極端な場合には、 あ・あ・あ 等と聞き取ってしまうことになります。
この傾向は聞き慣れない(推測が出来ない)言葉ほど強くなります。
また、聴神経以降の伝達力の低下も重なり、治療院内では機械音や電子音、暗騒音等にも邪魔をされてしまい、益々聴き分けのしづらい状況となってしまいます。
更には、“小さな音は聞こえず、一定より大きな音は強大音として割れて聞きづらくなる”という現象(リクルートメント現象)を併せ持っているのも特徴です。

[実 例]

◎ 70代男性Nさんの場合

施療が終わり窓口料金を支払う際、いつも小銭をテープでまとめて持ってきてくださることに対して、私が「Nさんまめだねー」と言ったところ、窓を見て、「もう降ってきたかい?」と答えました。これは、“まめだねー”を“あ(雨)めだねー”と聴き間違えてしまった訳です。音の構成:[ま(マーあ)め]

◎ 70代男性Tさんの場合

腰の施療終了後、「Tさん、暇があったらストレッチをやってくださいね」と伝え、帰られました。数日後に来院され、ストレッチをやっているかを尋ねたところ、「いつも自宅の居間に居るわけではないからなかなか出来ていない」との返事でした。この場合は、“いまが(居間)あったらストレッチをやってくださいね”と聴き間違えてしまった訳です。音の構成:[ひ(ヒーい)ま]この方の場合は施療と並行して自宅でストレッチ動作を行うタイミングを逸してしまった、と言うデメリットを負ったことになります。
このような聞き間違いは皆様方の周りでもしばしば起こっていることだと思います。
ではどのようなことに注意をして話をすれば上手く伝わるのでしょうか。

<<結 論>>

☆聴き間違いを少なくする話し方、気配り

  • 笑顔で  → 注目して聴いてもらう為に(怖い顔は禁物、ポイントです!)
  • 近づき  → 院内騒音下で子音を聴き取りやすくする為に(口元を見てもらえるように、又出来るだけ正面で両耳効果を活用)
  • 普通の声で→ 音(声)の割れを防ぐ為に(リクルートメント現象対策)
  • ハッキリと→ 分析力の低下を補う為に(少しゆっくりと)

つまり、“笑顔で 近づき 普通の声で ハッキリと!”話をすると言うことになります。

<<まとめ>>

皆様にも聴こえの特徴を理解していただき、患者様との良好なコミュニケーションのお役に立って頂ければと思います。
患者様との“絆”を大切にし、満足度が上がることで来院率も自然に上がって来るのだと思います。

<<参考文献>>

  1. 楽しい毎日がはじまる補聴器ガイド「みみから」:ワイデックス株式会社(提供 さくら補聴器センター)
  2. 解剖学:岸 清・石塚 寛 編 医歯薬出版株式会社
  3. 生理学(改訂第2版):根来英雄・貴邑冨久子 著 南江堂
  4. 基本的聴覚検査マニュアル:服部 浩 著 金芳堂