下肢のストレッチングの効果  瀧澤 裕二(函館ブロック)

生 年 月 日 昭和42年10月26日
開業年月日 平成13年7月16日
開 業 場 所 函館市大森町5番5号
卒業年月日 昭和63年3月卒
出 身 校 東北柔道専門学校
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瀧澤 裕二
(函館ブロック)

<<はじめに>>

私たち柔道整復師が行う施術の中で、下肢に対するストレッチングやストレッチ方法を指導する機会は多く、その役割は大きい。 ストレッチングは、学生のスポーツ選手や中高年のスポーツ愛好家にとって、安全で効果的な運動を行うための重要なコンディショニング作りのひとつである。また、ストレッチングは障害予防や治療を行う上でもその効果は高い。
治療や予防を目的としたパートナー・ストレッチングを施す場合、特に忙しい学生たちに対し一人ひとりに充分な時間をかけて行うことは現実的ではないことが多い。
そこで練習前後や自宅などで手軽に行うことができるバンドを利用したセルフ・ストレッチングを指導したところ良い結果が得られたので報告する。

《ストレッチングの目的と効果》

<<目的>>

1 、コンディショニング 2 、障害予防 3 、リハビリテーション など

<<効果>>

1 、関節可動域(柔軟性)の維持・向上
2 、血液循環の向上
3 、障害予防
4 、疲労回復の促進
5 、疼痛の軽減
6 、リラクセーション
7 、筋肥大 
8 、筋萎縮の抑制 など

<<分類>>

A 伸張速度による分類 

1、スタティック・ストレッチング(10秒から30秒くらいかけて、ゆっくりと静的に筋を伸張する方法)
2、バリスティック・ストレッチング(動的に反動をつけながら筋を伸張する方法)
3、ダイナミック・ストレッチング(特定の競技動作に関連した柔軟性を高める方法で、その場で特定に筋群を動的に伸張する方法と、ウォーキングや軽いランニングの中で伸張する方法がある)

B 実施者による分類 

1、セルフ・ストレッチング(自分自身で行う為、時間や場所を選ばずに自己管理の下実施できる。)
2、パートナー・ストレッチング(トレーナーやチームメイトなど第3 者に実施してもらう為、時間や場所に限りがある。また、不注意に実施するとオーバーストレッチにより、筋線維や筋・腱移行部の組織を損傷させてしまう危険性があるためコミュニケーションをとりながら慎重に実施しなければならない。)

<<方法>>

1、ストレッチバンドを利用して行う。(セラバンドや自転車チューブなどでも可)
2、1 動作につき30 秒かけてゆっくりと筋が心地よく緊張するよう静的に、3 〜 5 セット行う。
3、痛みが伴うまで行わない。異常を感じた中止する。
4、勢いをつけたりバウンドさせたりしない。
5、リラックスしながら普通に呼吸するよう心がける。

① ハムストリングス:ストレッチバンドで体幹と片方の足底をつなぎ、仰向けになり膝を伸展させたまま股関節屈曲して大腿後面、膝裏の張りを意識してストレッチを行う。
② ポステリアチェーン:①の姿勢から脚を内側に倒す。倒した方向と反対の肩を床から離さないようにして腰部、大腿後面、大腿外側面の張りを意識してストレッチを行う。
③ アダクター:①の姿勢から脚を外側に倒す。倒した脚は床に付かないようにし脚の付け根周囲、大腿内側面の張りを意識してストレッチを行う。
④ ヒップフレクサー:膝下にタオルなどを敷き、片膝立ちになり、ストレッチバンドを足背に通し、片側を肩越しに手で保持し、股関節を伸展させる。股関節部前面、大腿前面の張りを意識してストレッチを行う。

<<結果>>

通院中の学生に、普段の練習前に各ストレッチングを2 セット、練習後自宅にて3 〜 5 セット、バンドを使用したセルフ・ストレッチングを指導した。時間的な制約がある中でもバンドを用いることにより日常的にストレッチングを充分に行うことができるようになった。

A君 中学3 年生(陸上)
種目3 ,000 M
6 月24 日9 分40 秒56(ストレッチ指導前の大会記録)
9 月9 日9 分16秒20 (ストレッチ指導後の大会記録)

【本人感想】

バンドを用いたストレッチングを行うことで、足の張りが軽減した。指導された方法は、特に難しくないため続けることができた。その結果、タイムも伸びうれしかった。

 

B君 中学2 年生(陸上)
種目1 ,500 M
7 月3 日4 分38 秒12 (ストレッチ指導前の大会記録)
8 月28 日4 分29秒52 (ストレッチ指導後の大会記録)
9 月11 日4 分26秒80 (ストレッチ指導後の大会記録)

【本人感想】

下肢の柔軟性が向上した。以前は、ストレッチを行うことの大切さを理解できていなかった。結果が向上し、続けることがめんどうだと感じなくなった。

<<考察とまとめ>>

バンドがあれば、いつでもどこでもストレッチングを行うことができる。日常的にストレッチングを継続することで、関節可動域の向上、傷害予防、疲労回復など、その期待される効果は大きい。しかし瞬間的に極めて高い筋収縮を発揮しなくてはならないような競技の直前においては、時間をかけたスタティック・ストレッチングによってパフォーマンスの低下を引き起こす可能性がある。そこで、競技前においては、ダイナミック・ストレッチングやバリスティック・ストレッチングなどの動的ストレッチングを用いて、神経・筋系の興奮性を高めるというような工夫をすることも必要である。
一方、日常的にストレッチングを継続することによって、最大筋収縮力、収縮速度、ジャンプの高さ、ダッシュ力などのパフォーマンスは向上するというエビデンスの高い研究報告がある。これは、継続的なストレッチングによって筋線維の肥大が起こることが影響していると考えられる。当院では、選手一人ひとりにストレッチング方法やタイミング、更に継続することの重要性を詳しく
説明し、理解できるように繰り返し指導している。その結果、疲労の蓄積が軽減し、パフォーマンスの向上につながったものと推察する。今後タイム、最大筋収縮力、可動域などを継続的に数値化して具体的に示すことができるよう更に研究を深めたい。