下肢における筋損傷後の治療とリハビリについての一考察

生 年 月 日 昭和48年2月1日
開業年月日 平成14年5月15日
開 業 場 所 函館市石川町353-1
卒業年月日 平成6年3月卒
出 身 校 東北柔道専門学校
 
山田 篤
(函館ブロック)

<<はじめに>>

 筋の損傷は運動器の障害のなかで10~30%と最も多い。筋の損傷はその程度が軽視されやすく、患者の主観的な感覚をもとにして早期に負荷をかけてしまいがちである。当院においても通院患者全体の40%が筋損傷であり、内8割が下肢の損傷である。

 今回、当院で行った下肢筋損傷のリハビリにおいて、競技復帰に至るまでの期間を短縮することができた。この症例について、考察し紹介する。

<<目 的>>

 早期のスポーツ復帰を果たす為には、出来るだけ早めに機能回復訓練を開始する事が大切である。急性期~亜急性期、亜急性期~慢性期への移行時期を見極める事が重要である。

 見極めのポイントとしては、患部の炎症状態に気をつけ腫脹や熱感、内出血などが治まりかけ、触ると少し硬さが感じられて来たら亜急性期~慢性期の治療に移行する。治療とリハビリを進めている際に怪我が再発しない様にコンディショニングなどにも気を付け、日常動作が可能なだけでなく、競技復帰する事を目的とする。

<<対 象>>

スポーツ競技者を対象とし、年齢15~57歳

●自主的にリハビリを行う患者
(男性20名、女性13名)

  1度 2度 3度 人数合計
男性大腿部 1名 9名 2名 12名
男性下腿部 0名 7名 1名 8名
女性大腿部 2名 4名 0名 6名
女性下腿部 1名 5名 1名 7名

●院内でリハビリを行う患者
(男性30名、女性15名)

  1度 2度 3度 人数合計
男性大腿部 3名 15名 2名 20名
男性下腿部 0名 8名 2名 10名
女性大腿部 1名 9名 0名 10名
女性下腿部 0名 4名 1名 5名

(大腿部48名下腿部30名)計78名を比較する。

<<方 法>>

●使用した リハビリ器具
その他、セラバンド

●使用した 理学療法器具
使用する物理療法器具として伊藤超短波製ES-520トリオ300東京医研製スーパーライザーを使用し、リハビリに使用した器具としてエアロバイク、ミニトランポリン、電動ウォーカー、レッグエクスカールマシン、セラバンドを用いて行った。

(トレーニングプラン)

 

  1. 受傷直後(安静期) 組織の回復を図る為、局所の安静と物理療法が中心。
  2. 第一段階 トレーニングの維持を目標とする。患部に負荷をかけないよう自動、他動の柔軟体操を行う。痛みの限界を越えてはならない。筋の状態を安定させる為にはアイソメトリックトレーニングが有効。
  3. 第二段階ではアイソメトリックに加え、徒手抵抗(コンセントリック)で負荷を高めていく。ここではさらに患部も含めて他動的な柔軟体操を行う。目標は抵抗を加えて負荷をかけても患部に痛みが出ないようにし、瘢痕組織の伸張性に留意する。
  4. 第三段階 この段階では更に負荷を高めて行き心肺機能の向上を目標とする。
  5. 第四段階 この段階ではランニング動作が受傷前と同様に痛み無く行う事が出来、筋負荷能力が完全となり競技復帰が目標となる。
  • 各段階の症状に合わせトレーニングと平行しながら、理学療法、レーザー治療を行う。
  • 自主的にリハビリを行う患者へは、症状の時期に合わせ、リハビリ内容の用紙を渡す。
  • ※ 各段階の症状に合わせトレーニングと平行しながら、理学療法、レーザー治療を行う。
  • ※ 自主的にリハビリを行う患者へは、症状の時 期に合わせ、リハビリ内容の用紙を渡す。
  • リハビリトレーニング風景

<<結 果>>

☆ペインスケール(NRS)11段階にて評価
0(痛みが無い)~10(痛みがかなり強い)まで。

  • 院内にてリハビリを行った患者

対象45名中 評価0と答えた患者数 (35名)

  1度 2度 3度
男性 大腿部 2名 13名 2名
下腿部   8名 1名
女性 大腿部   9名  
下腿部      

評価1と答えた患者数 (7名)

  1度 2度 3度
男性 大腿部 1名 2名  
下腿部     1名
女性 大腿部      
下腿部   3名  

評価2と答えた患者数 (3名)

1度 2度 3度
男性 大腿部      
下腿部      
女性 大腿部 1名    
下腿部   1名 1名

● 自主的にリハビリを行った患者
対象33名中 評価0と答えた患者数(7名)

1度 2度 3度
男性 大腿部 1名 2名  
下腿部   1名  
女性 大腿部 2名    
下腿部 1名    

評価3と答えた患者数(8名)

1度 2度 3度
男性 大腿部   2名  
下腿部   3名  
女性 大腿部   1名  
下腿部   2名  

評価5と答えた患者数(13名)

1度 2度 3度
男性 大腿部   4名  
下腿部   3名  
女性 大腿部   3名  
下腿部   3名  

評価6と答えた患者数(5名)

1度 2度 3度
男性 大腿部   1名 2名
下腿部     1名
女性 大腿部      
下腿部     1名

<<考 察>>

 肉離れは遠心性収縮による羽状筋、半羽状筋の筋腱移行部損傷である。下肢を構成する筋は羽状筋が多く、実験の結果から羽状筋は紡錘筋と比べ、一定張力に対する筋線維の伸び率が低く断裂に至る伸張負荷は大きいが遠位の筋腱移行部での断裂が多いと報告がある。

 負荷損傷が生じ、少し経つと炎症反応が起こる。その後内出血は吸収され、それに続いてリハビリで筋に負荷をかけていく事は、筋線維の修復、瘢痕組織の形成と2つの重要な意義がある。新しく出来た線維には、収縮性の乏しい結合組織が含まれ、そのため瘢痕組織が大きくなると収縮機能が低下し筋力が落ち、結果再断裂の危険性が高まる。

<<まとめ>>

 損傷した筋の痛みが表面的に治っただけの段階で早期に負荷をかけてしまうと再受傷し初回より重症になる事がある為、高い負荷能力を回復させる為に段階的なリハビリをさせる事が重要であると考える。

参考文献 /

競技復帰の為の段階的リハビリテーショントレーニング  福林 徹